歯周病の特徴

 前のページで,歯周病の原因である歯周病原性細菌についてお話ししました。今回はそれを受けて立つヒトの体側についてのお話です。金属アレルギーのコラムでも少しふれていますが,人の体には「免疫」という防御機能が備わっています。歯周病にもこの免疫は深く関わっています。この免疫には体のいろいろなものが関わっていますが血液中の細胞がとても大切な役目をしています。

「腫れる」・「膿が出る」ということ

 血液の成分に白血球やリンパ球という細胞があることは,ご存じの方が多いと思います。漫画的にいいますと,この白血球という細胞が防御機能の第一線を担っている兵隊さんです。人の体にウィルスや細菌などの「敵(異物)」が侵入すると ,この白血球が敵を攻撃・消化しています。金属アレルギーのコラムに登場した「抗体」という武器はリンパ球が使う専門兵器です 。特定の敵をやっつけるように作られています。つまり,どちらかというと白血球は歩兵隊,リンパ球はスペシャリストということが出来ると思います。一般に異物が人の体に侵入しますと白血球は攻撃を仕掛けるとともに応援を要請します。するとその部分に兵隊が集まりやすいように人の体は道路(毛細血管)を拡張したり,新たに作ったりして白血球やリンパ球などの兵隊を集結させます。 つまり,血が集まるわけですから外から見ると腫れて炎症を起こしているように見えるわけですね。
 擦り傷をあまり消毒などしないで放っておきますと傷口が化膿することがあります。この時出てくる「膿」とは,傷口にある菌と戦って役目を終えた白血球の死骸なのです。

 このように考えますと,「腫れる,炎症が起きること自体は人の体にとって必要なこと」というのが理解いただけたでしょうか?実は発熱という現象も ,免疫細胞を活性化させるためであると考えられるようになってきました。風邪をひいたときに最初から解熱剤などで熱を押さえ込んでしまうと,体の防御能力を低下させてしまい,逆に長引かせる結果になると言われています。ですから腫れたり炎症が起きたときは「おっ,体が(防御のために)頑張ってくれてるんだなぁ〜」と思えば痛みも少し我慢できるかもしれません。

 口の中も全く同じです。細菌と人の体の攻防があります。前のページで出てきましたが,歯周病原性細菌にとって特に居心地のよい場所は「歯と歯ぐきの境目(ポケット)」です。そこはヒトの体の中でも弱い部分でもあります。細菌が増殖するとその細菌が出す毒素によって歯と歯ぐきの境目が傷つけられはじめます。それを察知した白血球は細菌に対して攻撃を仕掛け,応援を要請します。つまり歯ぐきに白血球やリンパ球(=血)が集めるため腫れるのです。

口の中だけの特別な事情

 通常の傷や病気では,応援部隊が到着して抗体という専用の武器まで揃えば,人の体が勝利して異物は無くなり,兵隊達は解散します。兵隊達が解散するということは血液の集まりがなくなりますから,炎症が治まる=病気が治ることを意味するわけです。

 しかし,口の中は少し事情が異なります。ヒトが物を飲食することにより栄養源は絶え間なく入ってきます。さらに細菌そのものは口の中という体の外側で増殖しているわけですから,根絶ができません。つまり戦争は長期化し慢性化します。するとやがてヒトの体は長期化した戦場から自分の体を少しでも遠ざけようと,自分の体に「撤退」命令を出し始めます。この撤退命令こそが骨が溶けていくことと理解していただいたら良いと思います。

 つまり,歯周病は細菌による感染症であり,その進行には免疫応答が深く関わっているということなのです。


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