虫歯になりやすい人,なりにくい人?
前回,歯みがきと虫歯についてお話ししました。歯みがきだけで虫歯を完全に予防できないのであれば,虫歯ができやすい人と虫歯できにくい人の違いは何でしょうか?
虫歯は特定の菌(ミュータンス菌)が引き起こす病気です。ということは歯周病や他の病気と同じく,菌の量によって「できやすさ」が変わってくるようです。そもそもミュータンス菌は口の中の常在菌ではなく,外来性の菌であるといわれています。ですから,人によっては口の中にミュータンス菌がいない人だっているようです。菌の量で大きく虫歯になる,ならないは変わってきますね。
次に考えなければならないことはミュータンス菌の生態です。この菌は砂糖(ショ糖)を栄養源として活動する細菌です。ということはショ糖の量によって活動度合いは異なってきます。砂糖の摂取量・・・確かにこれは個人差がありそうです。少なければよいというのは当たり前なのですが,ではどの程度少なければ良いのか問題になってきます。これについては砂糖の摂取量と虫歯の発生率について調べた研究があります。単純に砂糖の摂取量だけで比較すると,虫歯のでき方に差が出たのは一日10グラム以下の摂取量である場合に有意に少ないという結果でした。
例えば缶コーヒー1本どの程度の砂糖が含まれているでしょうか?ほぼ10グラムに近い量のものがほとんどです。物によっては10グラム以上含まれている物もあります。その他の食品にしても店頭に並んでいる「できあえ物」などは特に砂糖を使っている物は多いです。食パンにだって砂糖が入っています。それらを考えますと現代社会の中で「10グラム以下の砂糖摂取量で生活しなさい」というのは多くの方にとって非日常的なことになってしまうでしょう。
つまり,単純に砂糖の量で虫歯の発生を予防するのは難しいということになります。しかし,実はもう一つ考えるべきことがあるのです。
時間という問題
今までは砂糖の量について話を進めてきました。しかし,よく考えてみましょう。虫歯を作るミュータンス菌は口の中にいるのです。胃の中に入ってしまった砂糖まで栄養にすることはできません。ということは口の中に砂糖があるときが問題であるということになります。つまり口の中に砂糖がどれだけの時間滞留するか…それが大きな問題です。
極端な比較として同じ10グラムの砂糖を摂取するのに一方はジュースとして一気に飲んでしまうのと,もう一方は飴玉として15分程度舐めて摂取するのではどうでしょうか?当然,ジュースを飲んだ直後は目に見えない形でしばらく口の中に砂糖が停滞することになります。しかし,やがては唾液で薄められますので飴とは比較にならないでしょう。
この時間的問題が虫歯のできやすい人できにくい人を左右する大きな理由のひとつになっていると考えられています。口の中に砂糖がある時間が長ければ長いほど虫歯になる危険率は高くなるのです。
この時間的要因の大きさを裏付ける研究もあります。
下のグラフは歯垢(歯についている汚れ)のpH(ペーハー)を示すグラフです。pHとは数字が大きくなればアルカリ性,小さければ酸性という 物質の性状を表す数値です。(中性は7です。)この実験では100ccの水にそれぞれの量の砂糖を溶かし,1分以上かけてゆっくり飲んでもらいました。飲んだ直後に急激にpHが下がっているのがわかります。そしてpHが5.4以下(グラフの中の横線以下)になると歯は溶け始めることがわかっています。たった5gの砂糖が入った水をゆっくりではありますが飲んだだけで,歯の溶ける状態が20分近くも続くなんて…ちょっとびっくりですね。
その後何も摂取しないでいると口の中はやがて中性に回復します。最近の研究ではこの間に「歯の再石灰化」が起きていることもわかってきました。
しかし,あまり間を開けないで(砂糖入りの)ガムを食べる,飴をなめる,ジュースを飲む・・・というようなこと(「だらだら食い」と呼んでいます)をしていますと口の中は中性に戻ることなく酸性の状態が続きます。再石灰かが起こることもなく,ついには虫歯の発生を招いてしまうことになるのです。
皆さんも心当たりありませんか?? 例えば受験勉強や試験勉強をする中学生や高校生の皆さんが「眠気覚ましに」と砂糖入りのガムや飴を毎日のように食べる,あるいは,喉がいがらっぽいので常にのど飴(砂糖入り)を舐めている・・・
これでは,どんなに気をつけて歯を磨いても虫歯の発生を防止するのは難しいと思われます。また,小さなお子さんが遊ぶ間チョコレートや飴・ガムなどのお菓子を食べながら遊んでいれば柔らかい子供の歯はすぐに酸に侵されてしまいます。
この様に書きますと,やはり甘い物(砂糖が入っている物)がいけないように思えますが,決して食べるなと言っているわけではありません。実は私も甘い物には目がありません。しかし,砂糖がミュータンス菌の代謝を活発にして酸を産生することは事実です。ですから上記のような砂糖摂取の時間的コントロールなどを工夫してできるだけ虫歯になりにくいようにしたいものです。
次回は砂糖の摂取以外で虫歯予防について考えます。