虫歯と歯みがき

 現代医学の考え方では「病気」というものには何らかの原因があり,その原因を取り除くことによって治ると理解されています。例えば,インフルエンザは「インフルエンザウィルス」が原因であり,そのウィルスを排除することによって症状がなくなり病気が治ります。そして,治る過程では,必ず体の治癒機構(再生機構)が働いています。虫歯についてはどうでしょうか?前ページで見てもらいましたように虫歯の原因は細菌です。細菌が出す酸によって歯が溶けてしまいます。では,菌を除去することができれば虫歯は治るのでしょうか?
虫歯はそのままでは治らない?
 ここに他の一般的な病気と違う虫歯の大きな特徴があります。一度穴の開いた(溶けてしまった)歯は,自然に治ることはありません。歯という組織は「自然治癒能力」が非常に少ない組織なのです。ですから虫歯で穴が開いてしまった歯は,歯科医院に行って「詰めてもらう,かぶせてもらう」といった処置が必要になってくるわけです。もし,歯に自然治癒力が備わっていたならば,これほど世の中に歯医者さんは必要なかったかもしれません。
自然治癒しないのであれば,なおのこと「虫歯をつくらない」という予防は重要性を帯びてきます。ではその予防法として皆さんが一番先に頭に浮かぶこと。。。おそらく多くの方は「歯みがき」という言葉を思い浮かべられると思います。これは歯みがきで細菌をなくそうとしているのでしょうか?
ミュータンス菌の大きさ
 実際のミュータンス菌はどんな形をしているのでしょう。この菌は連鎖球菌といわれる菌の仲間です。小さな丸い菌が数珠状につながっている電子顕微鏡写真をよく見かけます。丸い菌ひとつの大きさは0.5〜1.0マイクロメートル(1000分の1ミリメートル)ほどです。この大きさの菌が歯の表面にプラークとしてひっつきます。では歯ブラシの毛先はどの程度の大きさでしょうか?おおよそ一本の毛先が50~100マイクロメートルといわれています。そして奥歯の噛む面には皺のような溝があります。もしもここに菌が付着して繁殖した場合・・・ブラシで取り除くことはまず不可能です。


細く見える歯ブラシの毛先でも届かない場所があります

 つまり,菌を除去するための歯みがきと考えた場合,歯ブラシですべての菌を除去することはできないということになります。虫歯が多くは奥歯の噛む面の溝や歯と歯のくっついている間(どちらも歯ブラシの毛先が入らない場所ですね)から起こっていることを考えますと,「歯みがきで虫歯予防はできない」というのはあながち嘘ではないわけです。
 では,歯みがきはしてもしなくても一緒なのでしょうか?これはまた極端な話です。歯みがきをしなければ食べかすはつき放題です。ミュータンス菌の繁殖場であるプラークがべっとりと歯にひっつき,菌の数は飛躍的に増え,の虫歯になる危険率もぐっと上がります。ですから虫歯予防に歯みがきは必要ですが歯みがきをしているからといって虫歯にならないわけではない。ということになります。
 このように書きますと,「歯磨きは大して重要でないのですよ」と言っているように思われるかもしれませんがそれも大きな間違いです。虫歯予防に歯磨きは必須だと思います。しかし,歯周病のコラムにも書きましたが完璧な歯磨きはとても難しいものですし,歯磨きだけで虫歯を予防できないのも事実です。
では,虫歯になるのを防ぐには歯みがきの他,何に気をつけていけばよいでしょうか。次回から考えてみます。