金属アレルギーって何?

 「アレルギー」という言葉は,おそらくどなたもがお聞きになったことがあると思います。アレルギーっていったいなんでしょうか?最近では本来の意味以外で使用される場合もあるようです。

 アレルギーという概念は 1906 年に von Pirquet という学者さんが提唱しました。allos(変 わった)ergo(働き)という意味の合成語です。人間の身体には自然治癒力のひとつとして自己の体を細菌やウイルスなどの外敵から守るための様々な仕組み(免疫)があります。けがをしてそのままにしておいても細菌などに感染せず治るのも免疫応答があるからです。この免疫に関するお話は歯周病の話にも非常に密接なつながりがありますので, 歯周病のコラムも参考にしていただければ幸いです。この身体にもともと備わっている防御機構が過剰反応を起こして様々な症状が出てしまうことを総称してアレルギーと呼んでいます。

 人の体に病原菌などの「自分でない異物(敵)」が侵入すると体の中の免疫細胞はさまざまなかたちで活動をはじめ,異物を排除しようとします。いわば,“異物 VS 免疫細胞”という戦争が勃発するような感じですね。その戦争のひとつの道具として免疫細胞は“抗体”という武器を使います。抗体は異物(抗原)にまとわりつくようにできており,異物の動きを封じ込めたり免疫細胞が異物を攻撃しやすい状態にする働きがあります。抗体はそれぞれの異物専用に作られますので,初めて攻撃を受けた異物に対してはその開発に時間がかかります。しかし以前に攻撃を受けたことのある異物であればその情報は記録されていますので,すぐに抗体を作ることができます。ですから一度風邪をひいたらそのシーズンは同じ風邪にかかりにくいわけです(風邪のウィルスが体内に侵入しても増える前に抗体に封じ込められてしまうわけです)。このような体の機能を抗原抗体反応と呼んでいますが,ときに攻撃しなくてもいいような物にまで抗体を作ってしまうことがあります。

 金属アレルギーとは,簡単にいってしまえば金属に対して抗原抗体反応がおきることです。実をいいますと金属そのものが抗原となることはないようで,溶出した金属イオンが体内の蛋白質と結合して形態が変わると抗原として認識されるようです。

 ある物質が一度「抗原(敵)」というレッテルを貼られ,それに対する抗体ができてしまいますと,その物質が再度体に入ってきたときは一斉に免疫細胞が攻撃に向かいます。入ってきた部分は戦場と化し,炎症が起きるわけですね。一度花粉症になると,毎年発症するのはそのためです。

 よく知られている金属アレルギーとして,時計・眼鏡やアクセサリーなど身につけている金属によるものがあります。皮膚と接触している金属から汗などによって金属イオンが溶出し,皮膚炎などの炎症を引き起こします。 このような症状が出た場合,“原因となる金属を身につけないこと”というのが最も簡単で確実な治療ということになります。 しかし,自分ではずしたくともはずせない金属があります。そう歯医者さんで治療した歯の詰め物やかぶせ物です。差し歯といわれる白く見えるかぶせものにも裏打ちに金属が使用してある場合が多いです。これらの金属がアレルギーの原因となることは頻度的にはまれですが,ないとは言えないのです。

 では歯の治療に使ってある金属がアレルギーの原因になっている場合,どの様な症状がみられるのでしょうか? 金属が直接接している口の中の粘膜が赤くなったり,びらんが生じるなどの症状がでることもありますが,ほかに手のひらや足の裏に水疱状の湿疹が繰り返し生じたり,手や足の皮がむける,皮膚がただれたり化膿をおこすといった症状が出ることがあります。掌蹠膿庖( しょうせきのうほう)症(写真1)といわれています。“水虫かな”ということで皮膚科を受診されたり,水虫の市販薬を使う患者さんも多いようです。しかし,(水虫)菌が原因ではないですから症状はなかなか改善されません。手足の湿疹の原因が口の中の金属にあるとはなかなか思いつきませんね。


拡大図
写真1 口の中の金属アレルギーが疑われる掌蹠膿疱症


 花粉症などの他のアレルギー疾患と同様に,金属アレルギーもある日突然発症するケースが多いようです。それまで何もなかった口の中の金属がアレルゲンと認識されはじめるのだからやっかいです。また,症状も重篤な人,軽い人,症状のほとんどない人とさまざまです。このあたりも他のアレルギー疾患と一緒です 。

 最初にも書きましたように今のところ頻度としてはそんなに高くないようです。“そんなに高くない”などといった書き方は,非常にあいまいで大変恐縮なのですが,花粉症のように多くの人に現れる病気だとしたら,歯科治療で金属を使用することが認められなくなってしまうでしょう。しかし,アレルギー疾患は現代病のひとつといわれるように,年を追うごとに確実に増えつつある病気です。花粉症がその代表例ですね(ある統計によりますと,日本人の10人に1人が花粉症経験者だそうです)。増加の原因は現代人の食生活を含めた生活環境の変化なのか何であるのかはっきりしていません。今後,金属アレルギーも増えないという保証はありません。

金属アレルギーの有無を判定する方法

 では,「金属アレルギーかも?」という場合どうしたらよいのでしょうか?金属アレルギーの有無は,血液検査やパッチテストという検査で判定することができます。多くの皮膚科で検査を行うことが可能ですし,専門外来を備えた総合病院もあります。ひとことに金属アレルギーと言っても何の金属に対してアレルギーがあるのかも人によって異なりますので,しっかりした検査が必要です。そして,アレルギー反応の出た金属が口の中に使ってあるかどうか確認していく必要があります。すでにお口の中に使っている金属に関しては歯科医院で概ねの組成はわかると思います。

次の回では「金属アレルギーと診断された場合は?」についてお話しします。