歯周病とはどんな病気?

歯周病とは,読んで字のごとく「歯の周りの病気」です。 歯そのものでなく,歯を支えている歯ぐきや顎の骨(歯槽骨)に異常が現れます(図1参照)。


図1 歯の周りにある組織

 歯を家に例えると ,歯周病は建物を支えている「基礎部分に生じるトラブル」と考えていただくとわかりやすいと思います。逆に虫歯はこの例えでいうならば「家の上部構造のトラブル」です。 とくに基礎は目に見えない部分ですから,病気が発生していてもすぐには気付かない場合が多いのです。また,歯周病は進行性の病気なのですが,その進行が緩慢なため,痛みや違和感を伴わない場合が多く, さらに気付くのを遅くさせてしまっています。
  しかし,実は口の中をじっくり観察すればそれなりに症状がでている場合が多いのです。目にみえる症状としては,「歯ぐきが腫れる・歯ぐきから出血する (歯肉炎)」等が初期の段階です。
 普段皆さんは自分の口の中をどの程度ご覧になっていらっしゃるでしょうか? 歯磨きを洗面台でなさる方は多くても,じっくりお口の中を観察される方は,案外少ないかも知れません。下の写真(図2)は,健康な歯ぐきの写真です。矢印の示す歯の間の歯ぐきがきれいな三角形をしています。
健康な歯ぐき写真1 健康な歯ぐき写真2
図2 健康な歯ぐきの状態
 次の写真(図3)の歯ぐきは上の方とは少し異なります。歯の間の歯ぐきは少し膨らんでいて赤みを帯びているように見えます。
歯肉炎写真-1
図3 歯肉炎をおこしている歯ぐき
 この歯肉炎の段階では,ほとんど痛みを伴わない場合が多く,ご自身が気づいていないか,あるいは(出血などに)気がついていても放置されている場合が多いようです。また,お口の中で自分が見ることの出来る場所というのは結構限られています。歯の裏側などは普段自分ではあまり目にすることがない場所です。図3の人の裏側を見てみましょう(図4)。歯肉腫脹の原因である歯垢が大量に付着しています。しかし,見えない場所ですからこのままの状態が長期間続くことになるわけです。
歯肉炎写真-2 歯肉炎写真-3
図4 裏側には歯肉腫脹の原因である歯垢が…

 実はこれが少々やっかいな結果を生んできます。放置されていた歯肉炎は徐々に進行していきます。図5の写真ではさらに歯ぐきが腫れ(赤矢印),裏側を見ますとべっとりと「歯石(黄矢印)」が付着しているのがわかります。歯石とは歯垢が長期間付着した状態が続くことにより,石みたいに固くなった状態のものです。こうなると歯ブラシでは除去できません。

図5 歯肉の炎症がさらに進み,歯石も付着…
歯ぐきに起きていた炎症は徐々に拡大して歯ぐきの下にある歯槽骨まで波及していき,「骨が溶ける」という状態にまで発展します。しかし,それでも自覚症状がない場合があるのです。いや,自覚症状がないというより,症状に気づいていない(気づかないふりをしている?)と申し上げた方がよいのかも知れませんが・・・。
 さらにこの状態が長期間続きますと,骨の吸収が徐々に進行してやがて歯がぐらぐらになる,ひどいときには歯が抜け落ちるという事態に発展します
 下の写真(図6)の患者さんは,上の前歯が動きはじめたということで来られました。動きはじめた頃より一生懸命歯みがきをなさっていたようですので,歯垢の付着は少ないように見えます。しかし,前歯6本の歯ぐきがかなり腫れています。レントゲンで確認したところ,上の歯は根のほぼ先まで,外からはあまり異常に見えない下の歯も根の長さの半分程度骨が溶けていました。ほとんど自覚症状はなかったそうです。
歯周病写真-1 歯周病写真-2
歯周病レントゲン-1 歯周病レントゲン-2
図6 青印まであるべき骨が赤印まで溶けています


 つまり簡単に歯周病の進行をまとめますと

歯ぐきの炎症(歯肉炎)炎症が骨に波及(歯周炎)骨の吸収歯の動揺・脱落

と歯を失う病気なのです。しかも一度溶けてしまった骨は,治療によっても回復しない場合が多いということが問題です。もちろん最近では,歯を失うことだけが歯周病の問題ではなく,歯周病を放置しておくことによって引き起こされる様々な合併症が注目を浴び始めています。(今後のコラムで紹介予定)
 ある調査によりますと(*1),ごく初期の歯肉炎という状態を含めますと,30歳前後で国民の79%,40歳前後で84%の人が歯周病にかかっているという数字が出ています。かなりの数字ですよね。
 さて,次のページでは,ご自身のお口の中をチェックしてみましょう。よくある歯周病チェックリストです。
(*1:平成17年歯科疾患実態調査